不動産の雑学 その参
今回は敷金・礼金、原状回復について。
初期費用として支払うことの多い敷金・礼金。
退去後に行われる原状回復。
それらは、どんなものなのかというのを掘り下げていきます。
敷金とは
基本的には部屋を退去する際の原状回復費用として、あらかじめ貸主に預けるお金です。
退去時には、その費用が差引かれた金額が返還されます。不足額が出た場合には追徴されます。
また、家賃の滞納などの万が一に備えて・・・、貸主がリスクヘッジとして預かるお金です。
敷金は、概ね家賃の1か月分が相場。上記の原状回復については後述します。
礼金とは
貸主に謝礼として差し上げるお金です。(権利金と呼ばれる場合もあります)
その為、敷金のような性質はなく返還されません。
昔からの慣習でもある礼金。
由来には諸説ありますが借主から貸主へ感謝の気持ちを込めて贈っていたものから制度化したといわれています。
原状回復について
原状回復は、国交省ガイドラインで定義されており
"原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること"
と明記されています。
特に原状回復の肝である善管注意義務についてわかりやすく書いてある記事があります。
ぜひ、ご覧ください。退去のときの費用は?原状回復って?善管注意義務って?
噛み砕いて説明すると
普通に住んでいて劣化するものは貸主負担。借主に起因して損傷したものは借主負担。
例を出すと、太陽光による畳や壁紙の日焼けは通常の使用で発生するものなので費用請求はありません。
逆に、室内で喫煙して壁や天井にヤニ汚れをつけると通常の使用を超えている為、原状回復費の請求対象になります。
このあたりは把握されている方も多いのではないでしょうか。
しかし、賃貸借上で一番トラブルの多いとされる原状回復。
裁判まで発展するケースも・・・
裁判に発展したケースの一部を紹介
賃貸借契約書に約定されていた畳表の取替え費用のみが修繕費用として認められた事例
事案の概要(原告:管理受託者X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、平成2年3月賃貸人訴外Aから仙台市内のアパートを賃料4万8000円で賃借し、平成6年4月合意解除した。
訴外Aから本件建物の保守管理を委託されていた管理受託者Xは、賃借人Yの退去後、次の修理を行い、その費用(22万8200円)を支出したとして、賃借人Yに対し不当利得の返還請求を求めた。
なお、契約書には、賃借人は畳表の取替えを負担する旨、また、賃借人の責めに帰すべき事由でこの物件を汚損したときは、賃借人は、直ちに原状に回復しなければならない旨規定されていた。
イ 和室壁張替え 4万6400円
ロ 洋室壁張替え 5万6000円
ハ 玄関台所壁張替え 6万8800円
ニ 畳表取替え 2万7000円
ホ 諸経費 3万円
これに対して裁判所は、
(1)契約条項によれば、畳表取替え費用は賃借人Yの負担すべきものと認められる。
(2)壁の汚損は、賃借人Yの責めに帰すべき事由というよりも、むしろ、湿気、日照、通風の有無、年月の経過によるものと認められ、壁の張替えの費用は賃貸人の負担に属する。
(3)以上から、管理受託者Xの請求のうち、畳表替えの費用のみ認め、その余は失当であるとして棄却した。
賃貸借契約書に約定されていた畳表の取替え費用のみが修繕費用として認められた。
仙台簡易裁判所判決 平成7年3月27日
〔敷金 0 円 追加支払 2 万 7000 円〕
出典:国土交通省原状回復をめぐるトラブルとガイドライン[事例5]
上記の事例の場合
原状回復費用として借主は228,200円を請求されているわけですが、契約書に明記されてある畳表の取替え費用のみ借主の負担となる判決となっています。
逆に明記の無い、壁紙張替え費用は通常損耗であると認められており、請求は棄却されています。
通常損耗分を含めた原状回復義務の特約が有効とされた事例
事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成6年3月、賃貸人(サブリース業者)Yと月額賃料7万5000円で賃貸借契約を締結し、敷金22万5000円を差し入れた。
本件契約書には、赤の不動文字で記載された「賃借人は、本件建物を明け渡すときは、畳表の取替え、襖の張替え、クロスの張替え、クリーニングの費用を負担する。」旨の特約が付され、賃借人Xと賃貸人Yはその旨合意した。
賃借人Xは、平成11年5月、本契約を賃貸人Yと合意解除し、賃借物件を賃貸人Yに明け渡したが、賃貸人Yは、賃借人Xに対し本件建物は新築で賃貸したものであるが、通常の使用では生じない汚損・損耗があり、汚損状況は賃借人Xの放置によるものとして、本件契約の特約条項に基づき、5月分の前家賃4万1130円及び敷金22万5000円の合計額から畳表の取替え費用等23万8875円を相殺し、精算金2万7255円を賃借人Xに返還した。
これに対し賃借人Xは、本件特約は公序良俗に反し無効である。
また、特約条項に基づく費用額が敷金よりも高額になることを契約時及び更新時に一切知らされていない。
本件建物は住宅金融公庫融資物件であり、住宅金融公庫法は、自然損耗による畳等の原状回復費用を賃借人に負担させることを禁止しており、本件特約は無効である。
さらに、重要事項説明で特約条項の説明がなかったのは宅建業法違反であるとして、敷金等精算残金23万8875円の返還を求めて提訴した。
一審(東京簡易裁判所)は賃借人Xの請求を一部認めたが、賃借人Xはこれを不服として控訴し、賃貸人Yからも付帯控訴がなされた。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件特約条項による負担額を具体的に算出することは契約時には困難である。
(2)住宅金融公庫法の規定については、賃貸人自身が公庫融資を受けたものではない等により同法違反を理由とする本件特約条項の無効は主張には理由がない。また、賃貸人には宅建業法の規制は及ばない。
(3)消費者保護の観点も重要であるが、私法上、私的自治の原則が重要な私法原理であって自己の意思に基づいて契約を締結した以上は、その責任において、契約上の法律関係に拘束されるのが大前提である。
(4)契約内容を限定するには、当事者の意思自体が当該条項に限定的な意味を与えたに過ぎないと認められる場合、契約条項の文言から限定解釈が可能である場合、当該契約関係が私的自治の原則を覆滅させてでも修正されなければならないほど不合理・不平等な結
果をもたらすものであり、強行法規や公序良俗違反という一般条項の適用が可能な場合
でなければならない。
(5)本件特約条項が公序良俗に反するとは認めがたく、特約条項が自然損耗分を含まないと解釈するのは困難であり、本件特約条項は拘束力を持つといわざるを得ない。
(6)以上から、賃借人Xの控訴は理由がないとして棄却し、賃貸人Yの付帯控訴に基づき原判決の賃貸人Yの敗訴部分を取り消した。
東京地方裁判所判決 平成12年12月18日 判例時報1758-66
一審・東京簡易裁判所判決 平成12年6月27日
〔敷金 22 万 5000 円 追加支払 1 万 3875 円〕
出典:国土交通省原状回復をめぐるトラブルとガイドライン[事例15]
上記の事例の場合
契約内容に基づき"畳表の取替え、襖の張替え、クロスの張替え、クリーニングの費用"が借主に請求されています。
それに対して借主がその契約内容は無効であると主張しているわけですが、この判例では"借主の意志に基づいて契約を締結した以上はその契約内容を前提で考える旨"が判決で出されています。
2つの事例を踏まえると
このように契約書に明記されていることについては双方の合意があると認識されます。
ですので物件を借りる際には、契約書に書いてある内容を理解しましょう。
不動産屋で仲介の物件を借りる際には重要事項説明が行われます。
説明の場でしっかり理解しておくことが後のトラブルを避けることに繋がりますよ!
他にも様々な事例が紹介されています。
ご覧になりたい方は国交省HPへ
まとめ
敷金・礼金、原状回復。
そのいずれもお金のやり取りが発生する重要な事項です。
金銭の絡むことはトラブルになりやすく、しっかりと事後を考慮して契約を締結する必要があります。
貸主と借主が互いに契約内容を理解して契約解除まで過ごせられるよう、契約締結までに内容の理解と確認を。
契約が終わるまでの長い年月・・・。
当時交わした契約内容を覚えてない方も多いのではないでしょうか。
なにかあれば確認できるように契約書類はきちんと保管しておきましょう!
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